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Selfishly

Selfishly

白昼夢 p5


 ~~~ 白昼夢 5 ~~~


・・・「忘れるのも忘れ去られるのも、どちらも哀しい・・・。
    忘れるとは、その人の人生に関わりがなくなるという事だから」・・・




「ただいま」

灯りが燈る自宅に戻る。それは自分にとっては、とても奇妙な感覚だ。
そんな感慨を抱きながら、ロイは一応の挨拶をしながら人気の無い玄関の
扉をくぐる。
そう長い距離でない廊下を歩くだけでも、普段と違う気配に気づいていく。

人が存在する事で生まれる温かな空気とか。
生活習慣による匂いであるとか。
複数の人が共に生活する事による、遠慮や戸惑い、期待に喜び・・・。

どれもロイが独りで暮らしていた間には、存在しなかったモノばかりだった。

灯りが漏れるリビングに、ひょいと顔を覗かせて見せれば、真剣な表情で
手元の紙束に集中しているエドワードの姿が見える。
見慣れた部屋に見慣れない少年の姿に、ロイは思わず口元を綻ばせる。
「ただいま」
言っても聞こえないだろうと思いながらも、一応声を掛けてみると、意外な事に
エドワードから返事が返ってきた。
彼の集中力は桁外れで、普段なら何度呼ぼうが叫ぼうが通じない事が多いのだ。
―― 手元のものは、それ程のものではないということか・・・――

「おう、お帰り。・・・・・・って、今何時?」
きょろきょろと部屋の中を見回す様子に、ロイの推測は違っており
今までかなりの時間を集中していたのだろうと気づく。
「今はそろそろ日付が変わる頃だが」
そう答えてやると、エドワードは驚いたように目を瞠り。
「げっ! もうそんな時間なのかよ。
 ・・・・って、あんた、かなり遅かったんだ?」
ロイの軍服姿を眺めてから聞いてくる。
「まぁ早くはないが、・・・そう遅すぎる程でもないがね」
昨日、早めに帰らせてもらった分、今日に回ってきている業務をこなし、
エドワードの件で調整してもらう日程分を進めて行けば、自然とこんな時間に
なってしまったのだが、それを気にかけさせる事も無い。

そんなロイの返事をどう思ったのか、エドワードは一瞬考える素振りをして、
その後、「軍人も大変だな」と苦笑しながら肩を竦めてみせてくる。
「まあね。もう慣れてるが」
「・・・・・夕飯は済んでるのかよ?」
そう言えばと気づいたように窺ってくるエドワードに、ロイは「いいや」と
答えながら首を横に軽く振ると。
「メシ・・・作ってるから。――― あんたが嫌じゃなきゃ・・」
控えめなエドワードの提案は、多分昨夜のロイの言動が引っ掛かっているのだろう。
「そうか・・・。じゃあ、遠慮なく頂こうかな」
折角のエドワードの申し出を断るには忍びない。
それに、この時間を惜しむ気持ちは本当なのだから。

「じゃあ、着替えて来いよ。その間に温め直しておくからさ」
ロイの了承にホッとしたように表情を緩めて、エドワードがさっさと立ち上がって
キッチンへと続く扉へと歩いていく。
「鋼の・・・。そこまで君にしてもらうのは悪いから。
 温め位は自分で、」
そう言いかけた言葉は、エドワードの一言で軽く蹴られる。
「あんたに任せたら、逆に片付が増えそうだからいい」
そう返すと、もうロイには構わずキッチンの電気を点けて調理に掛かり始めた。

そんなエドワードの行動に、くすぐったいものを感じながら
ロイは言われたとおりに、着替えと自室へと向かった。



「凄いな・・・」
ロイは目の前に並べられた料理を眺めながら、素直な感想を呟いた。
「べ、別に凄いとかって言われるほどじゃ・・・。
 見た目より簡単なのばかりだし・・さ」
ロイの賞賛に、照れ屋の彼らしくぶっきらぼうな返事が返ってくる。
それを微笑ましく思いながら、テーブルに並べられた皿の数に気づく。
「・・・君は食べないのか?」
そう言ってから、今の時間を思い出す。こんな時刻だ、食事を済ませていても
当然だったのに。そう思い当たっても、少しだけ残念に思う気持ちが浮かんでしまう。
「えっ? お、俺?」
ロイの問いかけが余程意外だったのだろうか、エドワードは驚いたような表情で
ロイを見つめてくる。
「ああ。独りで食べるのは、なんだか味気なくてね。折角のご馳走なのに。
 が、こんな時間なんだから、食べ終わってて当たり前だな」
苦笑を浮かべてそう告げると、ロイは「いただきます」ときちんと挨拶をしてから
食事を始める。
ロイが食事を初めて暫くは立ち尽くしていたエドワードが、踵を返して動き出す。
ああ、やはりリビングへ戻るんだな、と食事をしながら思い浮かべていると、
エドワードは冷蔵庫から何やら取り出して、テーブルへと戻って来て
ロイの前に腰を落ち着ける。
「俺はメシは終わってるから、これ食う」
と、これも手作りなのか大きなスープカップに作られたプリンを食べ始めたのだった。

そんなエドワードの行動に、ロイは思わず口に入れた物を咀嚼するのも忘れて
エドワードを見つめるが、美味しそうにプリンを頬張るエドワードにつられて
口に含んだ料理を味わうようにして噛み締める。


「そう言えば。アルフォンス君の姿が見えないが?」
「ん、あいつは書庫に籠もってる。
 何か、あんたの蔵書の中で見たかったものがあったとかでさ」
「君達兄弟の知識欲には頭が下がるな」

そんな風にポツリポツリと、食事の合い間に会話をする。
料理を褒めたり、今日の出来事を話したり。そんな他愛無い話をしながらの食事は
本当に楽しい時間だった。外で食べる時とは違って、肩を張らず寛いで食べれるこんな時間・・・。
家で食べる事は勿論有るが、それは独りで慌しく栄養補給が主のような食事だったから
向いに腰を掛けあい、こんな風に穏かな気持ちで食事をするなど有り得なかった。


「大佐の歳なら肉が好きかと思ったら、案外そうでもないのな」
温野菜のサラダを美味しそうに食べるロイを見て、エドワードがそんな事を
言ってくる。
「肉は勿論好きだが、同じように野菜も好きだな。特にこんな風に、少し火を通してある野菜は
 口当たりも柔らかいし、量も沢山取れるしね」
コンソメで煮た野菜は柔らかな食感と味がして、アクセントに黒胡椒を利かせてあるのが
食欲を増す。
「お替り有るけど?」
気を利かせてくれたのか、エドワードがそう聞いてくるのに、ロイは思わず微笑んで返す。
「気持ちは嬉しいが、残りは明日の朝に頂く事にするよ。
 この時間にこれ以上の量を食べたら、ウエイトオーバーで中尉に叱られる」
食べ盛りの少年の食事量で用意された料理の数もボリュームも結構多い。
しかも味まで良いとなれば、あっと言う間に食べ過ぎてしまうだろう。
「そんなに肥えてる様に見えないけどな・・・」
プリンは既に食べ終えているエドワードは、行儀悪く机に頬杖を付きながら
ロイが食べるのを眺めている。
「肥えないように気をつけているからね。
 が、これだけ美味しいものを並べられると、どうしても食が進んでしまうから」
感謝の念を籠めながら、エドワードにそう告げ笑いかけてやると、
エドワードは「そ」とその気の無い返事をしつつ、自分の食べ終わった皿を手に
シンクへと移動した。
それが彼の照れ隠しなのは、赤らませた頬が語ってた。

1枚きりの皿をあっという間に洗い終わると、エドワードはキッチンから姿を消す。
後少しで食べ終わるから、もう少しだけ付き合っていて欲しかったのに・・・と
思いながらも、皿の上を綺麗に平らげていく。
そして、ロイが食べ終わるのを見計らったようにエドワードが戻ってくると。
「大佐、風呂の準備出来たぜ? 食べ終わったなら、入って来いよ」
そう告げながら、エドワードはテーブルの上を片付け始める。
ロイはエドワードのそんな気遣いに、目を瞠り。
「ありがとう・・・。が、そんなに気を使ってもらう必要は」
と、気遣う言葉を口にしてみれば。
「そんな対したことなんかしてないぜ。あんたは仕事で大変なんだから、
 家に居る俺らが出来る事をすんのは当たり前だろ?」
そんな気負いない返事がかえってきた。
自分の出来る事を見つけて行える。
それがどれ程、良い心構えなのかをエドワードは特に意識はしていないのだろう。
育ててきた人たちの教えのよさが忍ばれる。
ロイは素直に礼を口にして、準備された浴室へと向かって行った。


浴室に行けば、きちんと綺麗に整えられているのにまた驚かされる。
この様子では、昼には掃除に精を出してくれていたのだろう。
決して汚しっぱなしの方ではないが、綺麗にまでする時間はロイにはなかった。
生活最低限を保っていたと言うほうが正しいだろう。
エドワード達兄弟が来て1日で、すでに快適な生活空間を整えてくれているとは
本当に驚かされ、感謝するばかりだ。

それに・・・、1番嬉しいのは。
エドワードの気さくな態度だろう。
遠慮は勿論しているのだろうが、ロイが許す範囲内をちゃんと考えて
気兼ねなく接してくる。
屈託無くデザートを頬張り、他愛無い話で笑い顔を見せる。
さりげない気遣いや思いやりをロイに向けてくれる。

以前なら、どこか境界線を引いたような態度で接してきた彼が
まるでそんなものは無いように自然体で。
会話にしても、以前は突っ張って突っかかってきての喧嘩腰になる事が
多かったのに、あんなに和やかな空気が二人の間で作れるなんて。

その事が、思った以上にロイを喜ばせている。
心の片隅で、―― 記憶が戻らなくていいのでは・・・―― 
そう思ってしまうほどに。

以前のエドワードにとって一番はアルフォンスだった。
彼の笑みも優しさも、気遣いも。
それらは全て、弟にだけ向けられ余所見をすることもなければ、
おこぼれを施す事もなかった。

と。
・・・・少なくとも、今までのロイにはそう思えていたのだった・・・・
だから彼にとって今の状態は、嬉しくて喜ばしい事に感じれているのだろう。
が、それはただ単に彼の思い込み―― 自分がそう思い込んでいたかっただけ
だという事を、無意識の内に無視していての結果だ。
エドワードは決して、アルフォンスだけを見つめていたわけでも、考えていたわけでもない。
数多くの旅と、大人への成長過程で知り合ってきた人々との触れ合いで
優先すべきことと唯一とは、違う事にも理解してもいた。

だからロイが思い込んでいた事は、彼が自分自身「そう思っていたかった」、
その一点で作られた思い込みの産物だ。

エドワードが弟を唯一として生きている。
だから自分に入り込める隙間は無いと。
エドワードが弟にだけ愛情を注いでる。
だから自分は彼を愛しても無駄なのだと。

そう思えっていれば、叶わぬ事に傷つくのも少なくなる。
どうせ手に入らぬものなら、願うだけ虚しい事だから・・・。

そう思いたかったのは、彼自身の心なのだ。



そうやって引いてきたロイの中の境界線の輪郭がぼやけてくる。
エドワードを身近に感じて、彼の心遣いや気遣いに触れるたびに、少しずつ。
人とは欲張りな生き物だ。
僅かな希望を感じると諦めていた事も忘れて、期待を胸に膨らませていく。
まさに風呂から上がってきたロイの中には、そんな感情が芽生え始めていた。

タオルで髪を吹き上げながら、ロイは少々浮かれ気味に中尉の言った言葉を
思い出していた。
―― 中尉が言っていたな。忘れ去られたのなら、新しい関係を
   築いていけば良いと ――
聞いた時は、状況に絶望していたからそんな事を思う余裕はなかったが、
こうして一緒に過ごすようになって、少し落ち着いてみれば、
それはかなりの名案のような気がしてくる。
ロイは軽くなる気持ち同様の足取りで、まだ灯りが付いているリビングを覗く。
帰ってきた時同様に真剣に手元のメモを見ているエドワードに、
気持ちのまま声をかけた。

「鋼の、良い風呂だったよ。ありがとう」
そう告げながら座っているエドワードに近付いて、向いのソファに腰をかける。
「ん、どう致しまして」
書面から目を上げずにそう返してくるエドワードを気にせずに、ロイは話しかける。
「飲み物を取ってくるが、君は何か要るかい?」
「んーー、俺はいい。さっきプリンも食べたしな」
そう断るエドワードの言葉に、ロイは自分の分だけ取りにキッチンへと行き、
良く冷えた白のワインを1本取り出して開け、持ち帰る。
リビングでは先程と変わらない様子で、エドワードがメモ用紙を睨んでいる。
風呂上りで喉が渇いていた為、最初の1杯を歩きながら飲み干すと、
腰を掛けて二杯目も気分良く喉に流し込んでいく。
決して酒に弱くないからこそ出来る飲み方だ。
エドワードが珍しそうに、美味しそうに飲み干すロイを見ている。
「君は飲まないのかい?」
じっと見つめているエドワードの視線がこそばゆくて、
思わずそんな事を聞いてしまう。
「俺? 飲まねぇよ、そんなモン。
 未成年の時の飲酒は、成長を阻害する!」
そう言い切るエドワードに、ロイは思わず笑いが込上げる。
自分の身長を気にしている彼にしてみれば、牛乳の次に
成長阻害の嗜好品は天敵なのだろう。
「そうか」と笑いながら、概に4杯目のグラスを飲み干せば
ボトルはすでに半分になっている。
適量のアルコールの摂取で、ロイの気分は良くなる一方だ。
「さっきから何を熱心に見ているんだい?」
高揚してくる気分のまま、ロイは気軽に話しかけていく。
「んーー、構築式の見直し」
そう答えるエドワードの言葉に興味を覚えて、手元を覗き込む。
「構築式?」
ひょいと覗き込んだ先には、高度な練成陣が詳細に書き込まれている。
「・・・・・・それは」
目にしたものに覚えのあるロイは、僅かに眉を顰める。
「・・・ああ、人体錬成の陣だ」
エドワードも否定する事無く頷き返す。
「俺の・・・記憶の件が片付き次第、直ぐにも取り掛かりたいからな。
 ――― 失敗は許されないから、きちんと見直しておかねぇと」
悲願まで後一歩の所まで近付いている彼らだ。
覚悟はとうに決まっており、後は入念な準備にかかっているのだろう。
「やはり・・・・・錬成を?」
判りきっていた事なのに、思わず呟くように聞き返してしまう。
そう確認してしまうほど、彼らが挑もうとしている錬成は危険なのだ。
「当たり前だろ?」
何を今更と、不敵な笑みを浮かべてエドワードが返し、
また目を手元へと落としていった。

ロイはそんな彼に視線を送りながら、無言で杯を重ねる。
彼らの悲願は判っている。
その為だけに、地獄の底から這い上がり、茨の道を歩き続けてきたのだ。
ロイはそんな彼らに感嘆の念を抱いてもいる。
が、素直に応援だけ出来ないのは、同じ錬金術師として彼らの行おうとしている
錬成の難度が判るからだ。
頑張れば出来る――― そんな簡単なものではないのだ。
どれだけの犠牲を払って彼らが挑んだとして、それは叶うかどうかさえ判らない。
叶ったからと、無事に戻れる保障もない。

『止めるわけにはいかないのか?』

そんな愚かな言葉を吐き出しそうになるのは辛うじて堪える。
この程度の酩酊感では、理性は手放せないおかげだ。
ロイは軽く首を振って、濁りそうな思考を保つ。
そして話を変えようと、努めて明るく違う話題を振る。

「叶えた後の事は、何か考えているのかい?」
そのロイの言葉にエドワードは視線を上げて、う~ん?と考え込む素振りを見せ、
研究は一時休憩とばかりに、手に持ったメモを机に放り投げ
頭を組んだ手の平に乗せて背をソファにもたせかけ、宙空を見つめる。
「・・・・特に考えた事はなかったなぁ。
 戻るのに必死で、そんな事考える余裕も無かったしさ」
そう素直な気持ちを語ってくる。
「そうだろうね、君達の立場なら」
他を夢見て叶えられるような事ではないから、それも当然だろう。
「・・・・・でも、叶ったら家には戻るよ」
「家に? が・・・君らの」
既に無いではないかと思いながら言葉を止める。
「ああ・・・家は、もう無いけど。
 叶ったらさ、俺とアルで新しい家を作ろうかと思って」
へへへと嬉しそうな表情で、照れもあるのか鼻頭を指で掻いてみせる。
「・・・そうか、それも素敵だな」
ロイは複雑な胸中で、そう相槌を返す。
「だろ? 取り合えず、さっさと軍の狗は止めて、無くした時間を取り戻して
 行きたいなぁって思っててさ」
あっさりと告げられた言葉に、ロイは内心軽い動揺が走る。
「止める? 国家錬金術師の資格も返上するのかい?」
思ったより語調が強くなってしまったのか、エドワードが目を瞠りながら
組んでいた手を解いてロイを見てくる。
「ああ、勿論? あんただって、さっさと止める様に言ってたんだろ?」
「・・・・・・」
「あれ? 違ってたのか? ・・・何か、アルとかと話してて、
 そう言う風に聞いてたんだけどさ」

エドワードの言った言葉に間違いない。
ロイは常日頃、さっさと願いを叶えたら軍から抜けるようにと忠告をしていた。
「いや・・・その通りだ。早くやめるに越した事は無い」
「だろ? んで、リゼンブールに戻ったら、家建てて昔みたいに
 暮らしたいんだ」
エドワードの金の瞳が、柔らかな光を湛えている。
きっとそれは彼の夢見る未来像なのだろう。

が、それはロイの未来とは全く関わりがない夢だ。
往生際の悪い自分を感じながらも、ロイは話しかける。
「家は・・・・・別にリゼンブールでなくとも構わないだろ?
 二人とも折角の能力があるんだ、こちらで暮らしてはどうかな?」
「こちら? って、セントラルで?」
ロイの提案に、驚いたように見つめてくる。
「ああ。こちらなら君らの能力を活かせる仕事も多いだろうし、
 情報も最新のものが手に入るだろ?」
ロイの落ち着いた表情とは裏腹に、内心は滑稽なほど必死になっている。
エドワードが軍から抜けるのは賛成だ。
優秀であれば優秀なほど、危険が伴うのだ。
が・・・・・・、遠く、距離が離れると共に
未来の接点は皆無に近くなってしまう。
そうなれば・・・・・・。

そんなロイの心情に気づく事無く、エドワードは明るく笑って答える。
「あはははは!」
「鋼の?」
笑い声を上げるエドワードに、ロイが訝しそうに呼びかけてみる。
「ご、ごめん!
 で、でもさ、あんたが思いもしないこと言うから」
「思いもしないこと・・・?」
「そう! だって俺ら戻れば、軍に居る必要が無くなるんだぜ?
 なら、別にセントラルに残る必要なんか、全然ないじゃんか」
愉快そうに告げるエドワードに、ロイは茫然となりながら言葉を繰り返す。
「残る必要が・・・ない」
「そうだぜ。国家錬金術師に未練はないしさ、戻ったらトリンガム兄弟みたいに
 村の為に力を合わせて何か出来ることをしていきたいんだ」
そう希望を語るエドワードの瞳は、眩しい光に満ちている。
一点の曇りも翳もない瞳に、・・・・・・ロイは打ちのめされた。



――― 忘れ去られるという事は、こういう事なのだ ――― と・・・。
少し前までの浮かれた気分など、無残に散って名残さえ見当たらない。
彼の過去に存在し無くなった自分など、彼の未来には思い出としても残れないのだと。

漸く痛感したのだった・・・・・・。




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